僕にとって彼女は、 自分が今地球上でたった一人きりじゃないことを再確認する道具にすぎない 私にとって彼は、 死に向かって刻々と過ぎていく時間への恐怖心を誤魔化すための道具にすぎない 今日も世界は満ち足りている。 私が空を見上げてあくびをした一瞬に、誰かが誰かにキスをして 僕が列に割り込んできたおばさんに舌打ちした一瞬に、誰かが誰かに殺されて 地球が回っているのだ。 今日もペースメイカーは動いている。 原子炉も 鳥も 時計も 車も 虫も そして私は道端に咲いた小さな花に微笑みかけ 僕は目の前でつまづいた人に手を差し伸べ 今、生まれたてのこそばゆい感情を、 この暖かい春の陽射しに閉じ込める。 |